新規事業立ち上げを成功に導く経路依存性を克服する社内調整のポイントとは?

●新規事業の立ち上げにおける社内調整の課題と解決法

最初に、新規事業の立ち上げが必要とされる現代の企業環境について考えてみましょう。どの企業でも、変革を求める声が高まる一方で、社内調整という大きな壁に直面することが少なくありません。

講演を行った株式会社ディアレスト・パートナーの代表取締役、日比慶一は、自身の経験を通じて、新規事業立ち上げ の現場でどのような課題があるのかを具体的に語りました。その中でも、「経路依存性」と「ドミナント・ロジック」という二つの要素が、特に新規事業の障害になり得ると指摘しています。

 

経路依存性とは、過去の成功体験や慣習が新たな方向性への変化を妨げる現象を指します。ここで、企業が長年築いてきた業務プロセスや文化は、安定性をもたらす一方で、新しい取り組みへの柔軟性を失わせる場合があります。さらに、「ドミナント・ロジック」とは、組織内に根付いた考え方や支配的な価値観によって、異なる視点やアイデアを排除してしまう傾向を指します。これら二つの要因が重なることで、社内提案が理解されにくくなり、アイデアが生まれても発展する機会を失う事態が生じます。

 

講演では、こうした問題の本質に焦点を当て、例として実際の新規事業立ち上げの現場でよくある場面を取り上げました。経営陣から「新しい事業を考えたい」との指示が出されると、多くの担当者は意気揚々と提案を準備します。しかし、いざその提案を経営陣に示しても、「期待したものと違う」「現実的ではない」といった否定的な反応を受けることが多々あります。

 

提案者は求められたからには提案が歓迎され、受け入れられるだろうという期待を持っているのですが、実際には提案が否定されたり理解されないことが多く、失望感を抱いてしまいます。一方、上司や経営者側は、提案が自分たちの期待と異なる内容であるため、想定と違ったり、考えが合わないと感じることがあり、その結果、提案者の意図を汲み取れずに否定的な反応を示します。

 

上司は提案者に対して「ちゃんとしたアイデアを出せ」と期待しており、提案者はその期待に応えようと具体的で実現可能なアイデアを提供しようとしますが、その過程で相手の期待に合わない、受け入れられないと感じることが多く、最終的には提案を出す意欲を失ってしまいます。その結果、提案の質や量が低下していくのです。

 

このように、提案者と上司・経営者との間には何を求め合っているのかという意識のギャップが存在し、それが組織内での新しい提案の価値を低く見積もらせ、最終的には提案が進まなくなってしまう原因となっているのです。では、企業の変革を加速するために何をすべきかを、次章で考えます。 

●企業の変革を加速するために経路依存性を理解する

まず、企業が進める変革において重要な要素である「経路依存性」についてお話しします。この概念は、新しいアプローチや戦略を導入する際に、どれほど過去の経験や決定が影響を及ぼすかを示します。

企業が新規事業を推進する際には、いくつかのプロセスが存在します。講演では、このプロセスを“フィットジャーニー”というフレームワークによって説明しました。フィットジャーニーでは、発着想やアイデア の誕生から始まり、顧客の課題に対して適切な解決策を提供できているかどうかを検証します。その解決策が商品として形になり、市場に受け入れられるまでを段階的に確認していきます。この過程では、初めに自社の価値を再確認し、その後顧客の視点を取り入れながら視点を広げていくことが重要とされています。しかし、これらの視点がうまくつながっていない場合には、計画が失敗に終わるリスクもあります。

 

さらに、新規事業を推進する上でのモデルも取り上げました。このモデルでは、まず自社のビジョンやミッションを起点とし、顧客の課題を明確にした上で事業アイデアを構築します。その後、事業計画を策定し、商品やサービスを開発し、最終的に市場へ展開するという一連のプロセスを示しました。しかし、これらのステップを進める中で、様々な課題が立ちはだかります。

 

また、新規事業において直面する具体的な課題も提起しました。例えば、初期段階ではアイデアが出ない、あるいはビジネスとして成り立つ事業プランが作れないという問題があります。このほか、事業プランが完成しても、社内での理解や採用が得られず、さらに実行段階での障害が新たな課題として現れることも指摘しました。これらの課題の多くは、社内の壁や組織文化、そして新しい価値観の受容の難しさに起因しています。

 

特に重要なのは、計画段階でうまくいくと思われたプランが、実行段階でうまく機能しない理由を理解することです。これは単に計画が悪いわけではなく、過去の決定や既存の構造が計画の進行を阻害しているケースが多いとされます。このような経路依存性の存在が、企業の変革を加速させる上での大きな障害となり得るのです。

 

以上の点を踏まえ、企業は経路依存性を正確に理解し、克服する戦略を講じる必要があります。つまり、過去の決定が現在の行動を制約する中、柔軟性を持たせながら新たな道筋を切り開くことが重要です。

●社内風土が新規事業のアイデア出しに与える影響とは

 

つづいて、新規事業を進める際に直面する課題について考えていきます。特に、社内風土が新規事業アイデアの成否にどのように影響を及ぼすかを掘り下げます。

 

新規事業を推進する際に重要なのは、顧客課題を特定し、それを解決することで得られるベネフィットを明確にすることです。この段階は多くの企業で広く認識されており、ノウハウや情報が蓄積されています。しかし、事業の企画が成功しても、その実行段階で新たな課題が生じることが多いのです。その一つが社内風土の問題です。

 

新規事業を進めるためには、リソースの確保が欠かせませんが、企業内部の障壁に直面することがあります。例えば、既存の業務のやり方に固執し、新しい進め方のアイデアが受け入れられないケースが挙げられます。これには、組織の文化や価値観が深く関係しています。一方で、新しい価値を提供する提案は多くの場合、既存の関心事や課題とは異なる視点を持っています。その結果、既存の枠組みの中では理解されにくいことが多いのです。

 

また、アイデアが具体化し実行段階に進むと、「うちには合わない」「そこまではできない」といった反応が生じることがあります。これは、新規事業に伴うリスクや変化への抵抗が原因です。たとえば、従来の製品を提供するメーカーがサービス事業に挑戦する際、サービスの運用や監視といった新たな業務に組織が対応できないと感じる場合があります。こうした問題の背景には、単なるリソース不足ではなく、組織内の価値観や優先事項の違いが潜んでいることが多いのです。

 

新規事業のアイデア提案は非常に難しいとされています。特に、新しい視点を提示する提案は、既存の課題とは異なるため理解されにくい性質があります。例えば、業務効率化を議論している場で、「その業務自体が不要ではないか」と提案すると、議論を否定するものとして反発を招くことがあります。このように、新規提案が受け入れられるには、論理性だけでなく、社内風土や柔軟性が欠かせません。

 

社内風土の影響を克服するためには、組織全体で新しいアイデアを共有し、受け入れるための環境を整えることが必要です。このためには、トップダウンのリーダーシップだけでなく、新規事業を牽引する担当者のリーダーシップも重要です。特に、新規事業担当者が事業を立ち上げて推進する際に、自分事として圧倒的当事者意識を持つことが求められます。

 

これらを踏まえ、トップと現場、双方が協力して新しい価値を生み出す姿勢が求められています。そのため、新規事業は単なる提案や計画で終わらせるのではなく、実行に移し、成功へと導くための取り組みを、組織全体で協力していくことが大切です。

●経路依存性を克服して進める企業変革のポイント

最後に、経路依存性とドミナント・ロジックを克服し、良い面を活かしながら新しい視点を取り入れる方法を解説します。実際、企業が新規事業を立ち上げたり、大きな変革に取り組んだりする際、進行が妨げられる原因として頻繁に取り上げられるのが、これらの要因です。つまり経路依存性とは、過去の経験や組織の歩んできた歴史が、現在の価値観や行動に深く影響を与える現象を指します。そして、ドミナント・ロジック は、こうした歴史の中で形成された支配的な考え方や文化を指します。これらは時に強みとなる一方で、新たな挑戦の際には障壁となることが少なくありません。その結果として、新規事業を社内で立ち上げる最大のメリットである経営資源の活用や社内協力が得られない課題が生じてしまうのです。 

 

例えば、ある企業が新しい事業に取り組む際、「当社のやり方ではない」という声が社内から上がり、改革が停滞することがあります。さらに、顧客の意見を取り入れる過程でも、「他にももっと意見を」という声が続き、完成形が見えないまま時間が過ぎてしまうことも少なくありません。これらの現象の根底には、経路依存性が強く関係しています。具体例として、製造業の企業が新たなデジタルマーケティング戦略を導入しようとしても、過去の成功体験に基づいた伝統的な営業手法が優先され、変革が進まないケースが挙げられます。

 

変革を進めるためには、まず自社の経路依存性とドミナント・ロジックを明確に理解し、それが現在の課題にどのように影響しているかを認識することが第一歩です。その上で、これらを全面的に否定するのではなく、動的な視点で捉え直し、活用できる部分を見出すことが求められます。例えば、既存の強固なルール遵守の文化を活かし、新規事業に対応した新しいルールを設けることで、スムーズな実行を促進することができます。

企業が持つ強みと課題を客観的に分析し、価値の転換を図ることが変革の鍵となります。このプロセスを通じて、経路依存性やドミナント・ロジックが新しい可能性を妨げる障害から、組織全体の成長を支える基盤へと変わることが期待できます。このように、新しい視点を取り入れることで、企業変革の成功に一歩近づくことができるのです。変革に挑戦する勇気を持ち、閉塞感を打破して「未来に選ばれる企業」を目指すために、私たちはさまざまな支援を行っています。ぜひ、お気軽にお声がけください。